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歩さんが部屋を出て行って、私はまた眠ってしまった。
起きれば枕元にはお盆に置かれたお粥と薬。
それと、たぶんたまちゃんが置いたのであろう白い小さな冬花が添えてあった。
「………もう…お昼過ぎなのかな…」
障子から漏れる陽の高さから推測して、寝間着から着替えようと布団をしまってある事に気づく。
「……私の着物は…?」
藍色の私の着物が、昨日まで机の上におかれてあったのに、今は私が身につけていた何もかもすべてがなかった。
その代わりに置いてあったのは冬浴衣と薄い桃色の羽織り。
「………――」
「あれ!お姉ちゃん起きたの?」
「………―!!」
いきなり聞こえた甲高い声に身を震わせ振り向く。
「おはようなの」
「……たまちゃん……おはよう」
「ん!」
「………え」
「お姉ちゃんの」
歯が抜けて間抜けになったたまちゃんの笑顔の先には間違いなく私がいて、その私はたまちゃんの手元を見ていた。
そこには赤い髪結いの紐。
「たまが選んだの!」
「……私に?…」
「うん!」
「……ありがとう」
「早く着替えるの」
「でも…私の着物が…ないの…」
「歩姉が洗ってたの」
「えっ…」
「それ着るの」
指差されたのは先ほどの冬浴衣と羽織り。
………私が着たことのない色。
「私には…あわない綺麗な色だから…遠慮しとくよ…」
「え?そんなことないよ?」
無邪気なたまちゃんの笑顔が、私の胸にちくりと刺さった。
「この髪結いの紐も…私には少し派手かな…」
「そんなことないの!
お姉ちゃんの白い肌には桃色が似合うって父上が言っていたもん!!」
「……でもね…」
バァンッ!!
「あー!!もう!!早く着替えろ!」
「………―――!!!??」
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