落とし物

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痛む右腕を庇うようにして地面に座っていると、手に巾着が触れた。 「………――」 「お姉ちゃん!大丈夫!?」 顔を上げると、酷く歪んだ表情の女の子が居た。 その横にはこの子の父上という武士風貌中年の男。 髷は凛々しく、日には焼けているが違和感がなく、品格があり優しそうな人。 「……はい、巾着…」 「あっ…ありがとう…」 「すみません、娘が迷惑をかけたみたいで。」 私は立ち上がって着物の埃を払いながら頭を横に振る。 そして女の子にかけて落ちた肩掛けを拾い、頭にふわりとかぶる。 「………その浪士は…私を追って来ました。私のせいです…すみません…」 「いえ、危機一髪で間に合って良かった。」 「……お姉ちゃん…」 「……―恐い思いさせて…ごめんね…」 私は目を合わさず言うと、その場を去った。 ………迂闊だった 私が誰かと話せば、その人にまで迷惑が及ぶ事を… “あげる!元気になるって!” “桜?いい名前だね!” “すごーい!!お姉ちゃんを怖がるわけないじゃない!” 目を瞑るとあの子の笑顔が浮かんだ。 ………久しぶりに…人と話した… 優しそうな父上、可愛い娘。 当たり前の光景にすごく憧れを抱いてしまった。 「……―私は…一人でいい。」 そう思った瞬間… 「――…きゃ!?」 左手を引かれた。 ,
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