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うってかわって俺達のバイト先、“Honey Beat”に着いた。
出迎えてくれた店長は、お気に入りの軍服を着ていた。
店長もホールに出ない日だもんな。
ってーか、顔は笑顔だけど、オーラが黒い。
ズゴゴゴって音しそう。
「薄荷、菫、2人は先に着替えて来なさい。 琥珀はここに」
店長は店内で俺達を呼ぶ時、源氏名で統一する。
薄荷が李緒、菫が俺、琥珀が和希を指している。
ちなみに店長は白金。
店長が呼び名を統一するのは客に呼ばれてすぐにでも反応できるようにってことらしい。
着替え終えて、スタッフルームに戻る。
ロッカールームより手前にあるここは、シフト待ちにお茶を飲んでる先輩がいるときもある。
学生Dayの今日、俺達がマッハで着替えたのは学ランだ。
李緒は学ランの下にパーカー、俺は柄物のTシャツを着込み、個性を演出。
一応与えられたキャラに基づいた衣装である。
「今日は君達の親権者からの手紙を渡します。 ここで今、読みなさい。 でなければ、君達は捨てかねませんからね」
店長が持っていたのは、シンプルな封筒が3つ。
裏側には父と母の名前が並んでいた。
俺の父は国内外でも名の知れた、アパレルブランドのオーナーデザイナーである。
スーツ、婦人服、子供服、果てはアクセサリーを取り扱うブランドで、俺はそこの一人息子。
母も父の会社でデザイナーをしていた。
お蔭で子どもの頃から何の自由もない金の有り余った生活を送っていたけど、親と接したことなんて数えるほどだった。
そんな俺の小さい頃は、俺付きの使用人と過ごす日々。
父は仕事で家は愚か、国内にすらいないし、母はそんな父に着いて、もう何年も家にいない。
別に国内でも仕事ができたのに、だ。
中学の途中まで別の私立に通っていたが、家にいたくないことも理由に寮がある有明学園に中途編入したのだ。
……他にも理由はあったけど、それは割愛。
で、だ。
そんな親から手紙を寄越されても困惑しかない。
ぶっちゃけ邪魔だし、いらないし、それこそ店長の言うように捨ててしまいたい。
だが、店長はそれを許してくれなかった。
「読みなさいと言っているでしょう」
無言で封筒と見つめ合っていた俺達に、店長の圧力ある笑顔が炸裂し、封を切った。
それぞれが封筒から手紙を引き出して、読みだす。
俺宛ての封筒からは便箋2枚とイタリア行きの航空チケットが出てきた。
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