1.入学式

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……あぁ、後継者問題が勃発してるのか。 向こうはそういう場所だしな。 その上、あの会社は名前がでかい、俺にこれが来るのも頷ける。 ってか、わざわざチケット買ってまでして呼び出しかよ。 「やはり君にはそれでしたか」 店長の声に顔を上げれば彼は、苦笑いを浮かべた。 成程、予想通りってか。 取り敢えず何より、この便箋を読まねば、あっちの正確な状況が理解できない。 気は進まないけど、読むしかないよな。 もしかしたら予想が外れるかもだし。 結局俺が今までしてきたこと全部、意味がなかったんだって。 ああ、なんて無情な。 「店長、一週間休みますね」 行かなきゃならない、面と向かってまた、言うためにも。 イタリアへ、あの2人に会いに行かなきゃいけない。 ただ、イタリア行きを決めても、いきなり今日からは休まない。 今日終ってから準備して飛んでも間に合うからな。 和希は早々に読み終えたのか、ポケットに手紙をしまっていた。 李緒はと言えば、テキパキと不自然なまでに仕事をこなしていた。 俺らの家はどこも事情が複雑だけど、俺達、寮で同部屋になってるくらい仲がいいはずだろ? なんでなんも言ってくれないんだ。 「菫ー、神山さん来たぞー?」 「! ……はーい! 今行きます!!」 李緒を見たまま思考に耽っていたらしい。 楓さんに呼ばれてハッとなった。 神山さん、今日来たのか。 彼女は来ると俺は指名してくれる俺のお得意さん。 更に同じ学校の先輩である。 「スンマセン、先生に呼ばれて」 慌てて席に行けば、彼女は苦笑いを携えて迎えてくれた。 言い訳はコンセプトに合わせて変えている。 ので、学生Dayの今日は先生の呼び出しだ。 たまに先輩のパシリの時もある。 「菫、明日から遠征なんだって?」 あぁ、帰省することそういう風になってるんだ。 流石楓さん、上手い。 菫はサッカー部の設定だもんな。 運動部なら遠征って言った方がしっくりくる。 「遠征、長くなりそうなんスよ」 一応1週間以内にはカタを付ける気ではいるけど。 そう苦笑い気味に答えれば、神山さんは少し微笑んだ。 大人びたどこか見覚えのある笑い方。 「菫がそんなにいないのは寂しいわ」 「まぁ、そう言うな。 俺達がいるだろ?」 俺の背後から楓さんが声を掛け、神山さんはそうね、とまた笑う。 それも大人な笑い方をする。
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