1.入学式

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この人は俺の客の中でよく笑う方だ。 10分くらい話して神山さんは帰っていった。 帰りがけにまたねと飴を置いて。 神山さんの他、3人程常連さんの対応をして、今日は珍しく新規さんが入った。 その新規さんは、鳴海だったようだ。 雰囲気になれないのかそわそわして、時々周りを盗み見る。 正直言って物凄く挙動不審だ。 まぁ、あんまり放っておくと怒られるし……。 「初めまして、転入生の鳴海さん。 俺は菫、よろしく」 接客用の笑顔で彼女に挨拶。 鳴海は一瞬キョトンとしたが、すぐによろしくと返してきた。 へぇ、もっと驚くかと思った。 「校則は聞いてる?」 「うん。 さっき聞いたよ」 「俺は鳴海さんのクラスメートとして、お手伝いさせてもらうんで」 こういう店の経験はあるらしくて、すんなり事は進んだ。 コンセプト喫茶って言うのによく通っていたそうだ。 あ、執事喫茶とかそういう店のことだな。 そういうイメージ無かったからなんか意外だ。 まぁ、人は見かけによらないって奴なんだろう。 鳴海と次の約束をして、俺は終業時間となった。 帰り道の途中、李緒に頼まれた買い物を思い出し、スーパーへ向かう。 寮の近くにあってタイムサービスまである財布にも体にも優しい店だ。 渡されたメモ通りに食材を集め、籠を埋めていく。 最後に選ぶのは、味の好みがバラバラなドレッシング。 誰もこだわりを譲らないので、1人1ボトルなのだ。 「李緒がイタリアン、和希が青紫蘇。 んで、俺のが胡麻っと」 3つ入れたとこで、籠の中を再確認する。 買い忘れをチェックし、李緒の言いつけどおりに領収書もできちんと受け取る。 あいつ、家計簿つけて、俺らの財政管理してるんだ。 マメだよなぁ。 会計を通した商品をがさがさとマイバッグに詰め込み、岐路に着く。 部屋について、食材は冷蔵庫に収め始めた。 野菜とかあるし。 仕舞い終えたところで次は、俺の帰省準備だ。 「ただいまー」 荷物詰めが佳境に入ったところで、李緒が帰ってきた。 1人で戻ってきた李緒に尋ねれば、和希は本家に行ったという。 何でも、許嫁が決まったとかで顔合わせをするそうだ。 成程、手紙はそのことを知らせる内容だったと。 あいつの家、代々続く名家だもんな……。 家みたいな成り上がりじゃないからいろいろ大変そう。 李緒は呑気に夕飯を作り始めた。
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