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イタリアに降り立った俺は空港に立つ黒服の男に迎えられた。
明るめの髪色で漆黒のスーツを纏う、父の秘書だ。
「お待ちしておりました、蒼太様。 こちらへ」
連れて行かれた先には高級車が待機していた。
……正直これに乗るのはかなり気が引けるんだけど。
ささっと、俺のキャリーをトランクに乗せ、俺を後部座席へエスコートする。
「行きますよ。 織人様と茅乃様がお待ちです」
両親の名前を出され、俺は渋々車に乗り込んだ。
ってか、迎えに来るなら少しは車に気を遣えよ。
乗ってすぐ、俺は秘書の中山にある書類を渡された。
パラパラと捲り行けば、今回の呼び出しの詳細と後継手続について書かれているものだと分かった。
「中山。 俺の眼が悪くなっていないんなら、ここに書いてあるのは間違いだよな? それとも俺、視力落ちた?」
あまりの内容に動揺気味に尋ねれば、中山は運転席のミラー越しにニコリと笑った。
間違いなんかじゃないよ、って言われた気がした。
でも、だって、可笑しいだろう。
俺は後を継がないといって出て行ったのに、この帰省中開催されるパーティーは俺が父の会社を継ぐと公表するものらしいのだ。
「俺には夢を語る隙さえくれないんだ」
自嘲気味に笑って、書類をクシャリと丸めた。
あんなに、あんなに真正面から伝えてきたのに。
俺の大切なもの全部取り上げて。
「さぁ。 着きましたよ、蒼太様」
後部座席の扉が開かれ、今度は実家にいた頃の専属メイドに迎えられる。
「蒼クン! お久しぶりにございます」
「……寄るな」
俺が女嫌いになった原因、こいつなのだ。
名前を園田明日美という。
突き抜けに明るいテンションで厚かましくまとわりついてくる。
「そんな冷たいことおっしゃらずに! さ、荷物お持ちします!」
早く、早く~!と背中を押され、俺はウザいメイドと共に馬鹿でかい屋敷の中へ足を進めた。
……ここ、あんまり好きじゃないんだよなぁ。
「蒼クン、急いでください!」
「……ハイハイ」
ちなみに明日美、このテンションと口調でそろそろ三十路を越える。
人は見かけによらない。
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