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やっぱりか。
さっき読んだ資料の詳細は見間違いではなかったと。
そんで、まさかの婚約者までいるパターンだと。
ある程度は覚悟してたけど、納得はいかない。
「親父、ちょい歯ぁ食いしばれや。 手加減はしてやる、安心しろ」
「ちょっ?! 蒼クンッ?!!」
バキッと懐かしい音がして、また父が吹っ飛ぶ。
俺が有明に入って以来帰ってこなくなった原因になったあの事件の日、その時と今が重なった。
あの日もこんな風に父を殴り飛ばした。
「結局、何も理解してねぇじゃん! 俺の言葉、何も届いたねぇんじゃん!」
明日のパーティーだけは出てやる、それだけ言って俺は足早に部屋を出た。
明日美の騒がしい声が着いてこないところをみると、父の世話を焼いていることだろう。
数年振りに見るドアを開け、思ったよりも綺麗なままの部屋に驚く。
いや、でも、腐るほど使用人いたから暇なのかも。
ついでに掃除してっただけだろう。
そう決めつけて俺は部屋に入り、鍵をかけた。
俺の私物が何一つ処分されてないことを祈って、クローゼットを開ける。
片っ端から全部開放だ。
服は流石に入れ替えられてたが(同じデザインなのはスルーしとく)、大きめの灰色の袋とその隣の黒いケースに弄られた形跡はなかった。
長年の放置に不安になり、脇にある小箱のメンテキット、2つ引っ張り出す。
黒いケースには金色の錆のないサックスが、灰色の袋には弦の緩みきったベースが入っていた。
大事な俺の初めての相棒たち。
中の掃除や弦の掃除、チューニングをして、久々に奏でてみる。
変わらない音に安堵したのは秘密。
「防音完備の部屋でよかった」
今、あっちで使ってる和希のベース、漸く返せる。
――幼等部から一緒だったあいつらに、中等部の途中から加わった俺が、音楽に関わるのもある意味必然だった。
当時の寮は、希望制で部屋が小さいから楽器は運ばず、李緒は和希の実家に置かせてもらっていた。
俺もまだ家が日本にあったから実家で管理していた。
その所為で、引っ越す日の朝、俺を連れて行こうとする2人に楽器をたてにされたのだ。
それでも、日本に残りたがった俺に2人が出した条件が“コレ”をあずかる事だった。
「残るというのならこれを預かる。 弾きたくなったら帰ってきなさい」
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