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「その時はお前を後継者として披露する」
その日から一度も帰らず、弾く時は和希のベースを借りていたけれど。
それも、もう終わりにしよう。
もう、連れて行くんだ――。
今のうちに空輸手配をして送っておこう。
寮には絶対李緒がいるし、和希もすぐ戻るようだし。
帰り際、これを持ってるのを見られる方がめんどくさい。
「取り敢えず、纏めるか」
ベースとサックスをケースに戻して、メンテキットの箱と、前に使ってた楽譜を纏める。
ついでに置きっぱなしだったCDも持っていかないと。
何枚かあいつらに借りたままだったなぁ。
「さて。 ……どうやって運び出すかが問題だ」
イタリアじゃ知りあいいねえし、この量持って窓からダイビングは死亡率100%だし。
「よし。 ここは敢えて正面突破だ」
堂々と行きゃ何とかなるだろ。
キャスターの台車に箱を載せて、ベースは背負って玄関へ。
部屋にカードあったし、タクシーでも拾っていくとしよう。
そう意気込んで、玄関ホールまでは無事にこれた俺。
ホールには見知らぬ金髪の女が執事らしき男と立っていた。
あー、あれか。
あれが噂の、というやつな。
まぁ、関係ないし、スルーしよう。
『あ、そこの貴方! 私を早く茅乃様のところへ案内なさい!』
俺を使用人だと思ってるのかその女は、偉そうに話しかけてきた。
っつか、そこの執事止めろよ。
笑ってるってことは俺の顔を知ってるだろうに。
『ちょっと、お聞きになられて?』
キーキーうるせぇ声だな。
だから嫌いなんだよ、女は。
『っせぇ、ボケ女。 聞こえてんだよ』
『なっ?!』
女が怯んだ隙に、俺はガラガラと台車を押して玄関を出たのだった。
しかし、なんだあの女。
無礼なのはどっちだっつうの。
仮にも婚約相手の家でああやって振舞うかね。
通りに出て適当なタクシーを捕まえた。
『あ、荷物を日本に送りたいんで手続きできるとこまでお願いします』
タクシーに乗り、財布からユーロを少しとカードを確認して出しておく。
あ、ほら海外ってチップで余分に金抜かれたりするから。
先回り用意しておくもんなんだよ。
で、以外に安かった運賃を支払って、荷物を送る手配を終える。
俺は、折角だからイタリア観光のために徒歩で帰ることに。
通り沿いにあるカフェで小腹を満たし、ジェラート屋でバニラを購入する。
あ、本場はやっぱり美味いね。
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