2.帰省

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「その時はお前を後継者として披露する」 その日から一度も帰らず、弾く時は和希のベースを借りていたけれど。 それも、もう終わりにしよう。 もう、連れて行くんだ――。 今のうちに空輸手配をして送っておこう。 寮には絶対李緒がいるし、和希もすぐ戻るようだし。 帰り際、これを持ってるのを見られる方がめんどくさい。 「取り敢えず、纏めるか」 ベースとサックスをケースに戻して、メンテキットの箱と、前に使ってた楽譜を纏める。 ついでに置きっぱなしだったCDも持っていかないと。 何枚かあいつらに借りたままだったなぁ。 「さて。 ……どうやって運び出すかが問題だ」 イタリアじゃ知りあいいねえし、この量持って窓からダイビングは死亡率100%だし。 「よし。 ここは敢えて正面突破だ」 堂々と行きゃ何とかなるだろ。 キャスターの台車に箱を載せて、ベースは背負って玄関へ。 部屋にカードあったし、タクシーでも拾っていくとしよう。 そう意気込んで、玄関ホールまでは無事にこれた俺。 ホールには見知らぬ金髪の女が執事らしき男と立っていた。 あー、あれか。 あれが噂の、というやつな。 まぁ、関係ないし、スルーしよう。 『あ、そこの貴方! 私を早く茅乃様のところへ案内なさい!』 俺を使用人だと思ってるのかその女は、偉そうに話しかけてきた。 っつか、そこの執事止めろよ。 笑ってるってことは俺の顔を知ってるだろうに。 『ちょっと、お聞きになられて?』 キーキーうるせぇ声だな。 だから嫌いなんだよ、女は。 『っせぇ、ボケ女。 聞こえてんだよ』 『なっ?!』 女が怯んだ隙に、俺はガラガラと台車を押して玄関を出たのだった。 しかし、なんだあの女。 無礼なのはどっちだっつうの。 仮にも婚約相手の家でああやって振舞うかね。 通りに出て適当なタクシーを捕まえた。 『あ、荷物を日本に送りたいんで手続きできるとこまでお願いします』 タクシーに乗り、財布からユーロを少しとカードを確認して出しておく。 あ、ほら海外ってチップで余分に金抜かれたりするから。 先回り用意しておくもんなんだよ。 で、以外に安かった運賃を支払って、荷物を送る手配を終える。 俺は、折角だからイタリア観光のために徒歩で帰ることに。 通り沿いにあるカフェで小腹を満たし、ジェラート屋でバニラを購入する。 あ、本場はやっぱり美味いね。
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