2.帰省

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のろのろ歩いていると、猛スピードの高級車が俺のすぐ傍で停まった。 ドリフトを決めるとかなかなかだな、おい。 甲高い音で痛くなった片耳を押さえて、誰が降りて来るのかと見ていたら、玄関であった女の執事だった。 何事だとジェラートを食べ進めながら見守る。 『早見、蒼太様ですね?』 『そうですけど、何か?』 イタリア語で聞かれたので、イタリア語で返す。 俺に何の御用ですかね。 『お屋敷に戻りましょう。 織人様からあなたをお連れするように申し付けられましたので』 なんでワザワザ他所の執事に使うのか。 黙って出てきたのは俺だけども。 ってか、家のモン使えよ。 他所の執事使うな。 『乗ってください。お屋敷まで行きますよ』 父に呼ばれているのは癪だけど、大人しくついて行くとしますか。 車内には俺とあの女の執事だけだった。 つまりは、その執事が運転手なんだけど……。 『えーと、アンタ何さん?』 呼び名に困り尋ねると、その執事はミラー越しに後部座席の俺を見た。 『アタッコーディオ家に仕える、シルヴァ・ミラーノと申します』 アタッコーディオって随分物騒な名前だな。 本人には言わないけどさ。 『じゃあ、シルヴァさん。 アンタあのお嬢の執事なんだろ?』 『えぇ』 帰ってきたのは頷く言葉。 そうか、肯定したか。 『あいつに俺の顔を見せてなかった訳? さっきのスゲー不愉快だったんだけど』 いきなりなんだよって? だってなぁ、いくらなんでもあれはない。 どういう経緯で家に来たのかは知らないけれど。 『えぇ。 こちらの不手際で……。 蒼太様には大変不愉快な思いをさせたと思います』 『アンタじゃなくて、俺はあいつから聞きたいんだけど? 謝罪の言葉』 執事が謝るのは聞き飽きたよ。 下のものは何かと謝ってくるけど、上が謝るなんてことはまずない。 だから俺は、あのプライドエベレストに謝らせたいわけで。 というかそもそも間違えた奴が謝るのが常識だろ。 『ダニエラ様から、ですか?』 ……シルヴァもプライド高いの分かってだな。 っていうか、あいつダニエラって言うのな。 そんな会話をしていたら車は駐車スペースに入っていた。 運転席からシルヴァが降りて後ろのドアを開ける。 降車時の手は流石にスルーしたけど、行く手にあるドアは全てこいつに開けられた。 そして着いた父、織人の私室。 中にはダニエラとかいう女、明日美、母、父がいた。
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