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いつものように彼女の友人はカウンターに向かう。
彼女1人がテーブルに取り残された。
その時、初めて彼女の持っている教科書が建築系の解説書である事に気付いた。
『女の子やのに、建築学科なんか……なんか……意外やな……』
彼女の雰囲気からしたら文学部とか教育学部の方が相応しい。
ウチの大学はかなり有名なマンモス校なので、同じ学部だとしても学年が違えば顔を知らなくても当たり前。
同学年でさえ学科が違えば、取っている授業が同じにでもならない限り、一生口を利く機会もなく終わるだろう人たちも少なくない。
もっとも、その時の俺は研究室で古文の研究に没頭していたので、授業になんか全く出てなかったけど。
彼女が手元の建築書を手に取った時、他にも数冊の本が見えた。
『!!!!!!』
その中に……
俺のデビュー作があった……
『俺の小説……彼女も読んでくれてるんや……』
俺はなんだか急に照れ臭くなってきた。
しかも、彼女は数冊の本の中からよりによって俺の作品を手にとってパラパラとめくり出した。
『…………』
俺はついつい息を飲んで、また彼女を凝視してしまった。
……さすがにこの距離で凝視したら気付かない人はいないだろう。
すぐに俺の視線に気付いた彼女は不審げな顔も見せずにニッコリと優しく微笑んでくれた。
「……!」
『まるで……たった今蕾を開いた、ピンクのチューリップみたいや……』
本当にそんな印象を受けるほど、彼女の笑顔は純粋無垢で柔らかかった。
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