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カタカタカタ……
書斎にはキーボードを打つ音と、低いガムランの音楽。
そこに……
コンコン……
一心不乱にキーボードを打ち続けていた俺の背後で、遠慮がちなノックの音が響いた。
「はぃな、入りや」
顔は画面の方へ向けたまま応え、
俺は視線だけを入り口の方へ流す。
おずおず……といった感じで美優(みゆ)が書斎の扉を開けて入ってくる。
その手には俺の好きな店で買った豆で淹れた珈琲を乗せたトレイ。
「おかえり、予定より早かったんちゃうか?」
「うん、午後ね、休講だったの……ごめんね、邪魔しちゃった?」
俺の好みに合わせた少しぬるめのブラック珈琲を手渡しながら、申し訳なさそうに上目使いで俺を見る。
「そんな事ないで、大丈夫や」
俺は微笑みながらパソコンから向き直り、珈琲カップを受け取る。
「よかった……だって、尚之さん昨夜からずっと籠もりっきりだったから……」
「ああ……次回分の連載の締め切りがもう今週末やからな……構ってやれんでごめんな」
「そっ、そんな……そうじゃないの、美優は尚之さんの身体が心配で……」
頬を桜色に染めながら美優は恥ずかしそうに下を向く。
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