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「ついにこの日が来たんだ、って思ってるさ」
「あぁ」
そう語る二人の声は微妙にボリュームが落ち、表情は明らかに緊張で張り詰め、口元は固くヘの字に紡がれていた。
「あれから5年……かぁ」
「正確には、5年と63日だ。キラ・ヤマト」
「細かいね……レイ」
レイ、と呼ばれた少年のあまりにも堂々とした態度には、さすがのキラも冷や汗を拭った。
本名はレイ・ザ・バレル……キラのようにヤマト夫妻に名付けられた名前ではなく、
目覚めた時にはその名が記憶の片隅に残っていたらしい。
「そうさ、その日に僕達はここで拾われて、ヘリオポリスに迎えられた……」
「叔父様と奥様には、本当に感謝の辞も言いようがないな」
「預けられたばかりの見ず知らずな僕達を養っていてくれた……それに何よりコロニー・メンデルの探索許可が降りたのも、義父さん・義母さん達の助けがあってこそなんだし」
「そういう事だ」
正確に話すと、それだけではない。
世の中の基礎知識の無かったキラが「言葉を喋れる赤ん坊」状態でお勉強……もとい、
垂汗必死のリハビリに励んでいた間、ヤマト夫妻は付きっきりで面倒を見てくれて。
キラと違って基礎知識を「覚えていた」レイの方は戦時中の過酷な世の中を生き抜く為の心得と戦闘技術を学ぶ為に、
単身プラントへと渡る事をヤマト夫妻に嘆願し、
軍学校に通うのを許して貰っていたのだから夫妻の懐の大きさは伺い知れない。
ちなみにレイは成績がとにもかくにも優秀で、公私ともに様々な担当顧問から評価をも得ており、
そのまま社会適応力の高さの表れとなっていた……いわばエリート。
本当に残念なのは、彼が軍学校の修学期間を終える前に、戦争が終結してしまったという事だろうか。
レイがプラントへ渡り2年半後、無事にキラも大学のカレッジゼミに入学し、社会復帰を果たした頃に二人は再会した。
同じ記憶喪失者でありながらも、育った環境により生まれた観点の違いに最初はお互いに戸惑い、
しかし同じ境遇ゆえの思いから理解を重ね、そして……今に至る。
「ここで何があったのか……いや。何があるのか確かめる時なんだ」
「もちろん分かっている。頑張ってくれ」
「うん。……って君も関係あるよね?」
「細かいな、キラ・ヤマト」
「いや細かくないよね?」
レイにはユーモアのセンスもあったようで。
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