第Ⅲ章

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コーヒーを飲みながらお互いの気持ちをはっきりと口に出さなくとも確認しあった俺達… しかし、この先に望める事は、マサトとサヤが平穏に暮らして行ける事を願うのみ…という現実に、俺は押し潰されそうだった。 けれどサヤの朗らかな笑い声を聞きたい…笑わせてやりたいという思いには勝てず、時折電話をかけあうようになっていた。 そうして、また遊びに行くと言う約束を果たせないでいるうちに、転勤の話が持ち上がって来た。 元々数年単位で転勤のある職場…独身である為余計にあちこち移動していた。 これ以上サヤの側を離れるのは辛い…しかし何をどう望んでも実る事が無いのもまた事実… 悩んだ末、俺は結論を下した。 これを期に、少し頭を冷やそう… 新しい出会いもあるかも知れない… 転勤の話が本ぎまりになり、俺はマサトにメールを入れた。 マサトは送別会を開くと張り切っていたが俺は、送別会の晩サヤに決意を告げ、サヤの心を惑わした詫びをしなければ…と、思っていた。 日本酒を手土産に家を訪れる… お互いいつも通り振る舞ってはいたが、心の隅の想いはひっそりと陰を作っていた。
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