第Ⅴ章

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朝マサト達を送り出すと、日常の家事をこなしクローゼットの前に立ち洋服を次々取り出しては体に当てる。 暖かくなったとは言えまだ時折肌寒い風が吹く… 結局白地にパステルグリーンの柄の入ったワンピースに、合わせて買ったボレロを着ていく事に決めた。 シャワーを浴び、髪を整えメイクをする。緊張に頬を染め上気する肌は、久しぶりに見る女の顔だった… 私は一人照れ笑いを浮かべ、立ち上がった。 火の元を確かめ、戸締まりをする。浮き足だちながらも日頃の癖が自然に出て長い主婦の生活を思い苦笑いした。 玄関の鍵を閉め、バス停に向かう。思ったより強い日差しに目を細め、汗かきたくないのにな…と呟いた。 バスに乗り込み一息つくと、子供の通う小学校がひしめく家の屋根の向こうに見え、チクリと胸が痛んだ。 しかし不思議とマサトに対してはそんな感情は浮かばなかった。 そこまで冷めきっていたのかと改めて気付き、こみあげる苦笑いを止めるのに苦労した。 程なくバスは駅に着き約束の場所まで二駅程電車に乗った。 もうすぐタカシに会える… 私は10代の頃に戻ったように胸をときめかせていた。
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