第Ⅴ章

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駅に降り立ち、待ち合わせの場所を目指す。 マサトの会社とは逆方向だし、事務職であるマサトがその辺をフラつく筈もない。 知り合いもこの辺りで仕事をしている人はいないはず… それでも少し不安があった。普段あまり来る事のない場所で思いがけない人に会ったら… そんな事を考えながら歩いていると、すぐにその場所にたどり着いた。 こんなところで躊躇していたら、かえって不自然か… 私はさりげなく自動ドアの前に立ち、風のように滑り込んだ。 奥の方に立ち上がる人影が視界に入る。 タカシ… 駆け出したくなる衝動を抑え近付く。 ほっとしたような笑顔を見るだけで、目がしらが熱くなる。 「お待たせしました」 そういうのが精一杯だった。タカシの言葉に返答しながら、不意に涙が溢れ出す。 うろたえながら、「部屋に行かないか」というタカシの言葉に頷いた。 待ち合わせ場所が、ホテルのラウンジであった時点で、私の心は決まっていたのだ。 タカシに誘われたなら決して拒みはしないと… 今まで長い長い間いけないと思いつつ、願い続けていたことだったのだから…
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