スミレ

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スミレは、森を遠くはなれた町の中の家に着きました 窓辺に置かれたスミレは、『なんて いい所なんでしょう』と 思いました。 お陽さまが サンサンと、当たり、お水も、たっぷりもらえました。 次々に、つぼみをひらいてきれいな花を 咲かせました。 春が過ぎ 夏になる頃にはスミレは、もう 花もなく丸い葉だけに なっていました。 女の人は いつしか 水をやるのを 忘れてしまい、スミレは、もう 枯れかけていました。 そんなある日のこと 女の人は、窓を開けたまま出かけて行ってしまいました。 誰かが、そっと、 ゆすりました。 『さあ おいで、君の居場所は もうないよ 僕と 一緒に行こう』 窓から入ってきた風の子がやさしく 語りかけていました 力なく うなづいたスミレは、風の子と 一緒に 窓の外へ 出て行きました。 長い なが~い旅 終わりのない旅へと。 その時 スミレは、 解りました。 風の子のやさしさは 帰る場所のない淋しさを 知っているからだと。 風の子の荒々しさは 居る場所のない悲しさの せいだということを。 まぶしい光の中で 小さなスミレは、 小さな 風の子に なりました。
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