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† Ⅰ †
「わたしは、お前に殺されたりしないよ。そんなにヤワじゃない」
そう言っていつものように豪快に笑った、髪の長い女。
俺の――恩人。大事な、唯一の人間。
「約束できるか?」
その時の俺は、きっと心底情けない顔をしていたに違いない。
女は、馬鹿にしたように笑った。
「約束だって? 何でそんなことするんだ。わたしはお前よりもうんと長生きするから、意味ないだろう?」
そんな風に。
いつもいつも、お前は俺を馬鹿にしていた。
「お前がいるから人が死ぬ? 自惚れるな。誰もお前のために死んでるんじゃないんだよ」
お前が、そう言った、から。
――俺は、忘れていたんだ。
自分の、存在意義を。
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