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皐はわざとらしく溜息をつきながら、少女の細い顎をぐいと掴んで、上を向かせた。 「分かってんだろ、不法侵入者。このまま軍に突き出されたって、文句は言えないんだぜ? 俺が誰かは知ってんだろ? ん?」 多少なりとも恐怖してくれるのを期待しての行動だったのだが、少女の顔色はまるで変わらなかった。 と。 微かに、ほんの微か、集中していないと分からない位の差で、少女が。 ――笑った。 (いや、こっちが怖ぇんすけど) 人形がいきなりこっちを向いて笑ったような気味の悪さだった。 冗談抜きで恐ろしい。 「貴方は。非情な人。……ボクは、非情な人が嫌いじゃ、ない」 「あ……そうですか」 何と答えればよかったのか。 少女はまた、無表情に戻った。 「貴方の事は。もちろん、知っている。十九歳という若さで、総司令官、実質皇帝に次ぐ位に、一年でのし上がりながら。全く仕事をしない、ドマヌケの、極悪非道。とても、有名」 このやろう。 「言ってくれんじゃねぇか」 皐は口許がひくつくのを感じた。 これは、長期戦になりそうだ。 皐は意を決して、少女に向き直った。
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