序/

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来る日も来る日も辛い訓練と戦争の繰り返しだったが、国のためならばとそれも我慢できた。 三十八という若年で関東制圧に陰ながら貢献できた実力は、周囲にも認められていたし、男自身誇りに感じていた。 だからこそ、敗戦で王を失った時の悔しさは尋常ではなかったが、それと引き換えに手に入れた国の平和には、心の底から喜んだのだ。 だが……。 国民の反応がこれほどまでに変わると、誰が予想できただろう。 中央本部では現皇帝の力からか今だに力を保っているが、一見すると何の活躍もしていない郊外の彼の軍は、国民からの信用を失いつつあった。 辛いながらもやり甲斐を感じていた日々は、山のように押しかけて来る苦情や冷やかしの対応に塗り替えられた。過去の栄光は、もはや見る影もない。 行き場のない苛立ち。こうして惨めに八つ当たりすればするほど、虚脱感は増してゆく。 「オレに……どうしろと言うんだ」 嘆息と共に、虚ろな瞳を空へと向けた、その時だった。 つんざくような女性の悲鳴が、耳朶(ジダ)を揺さぶった。 軽い目眩のようなものをおぼえ、足に力を込める。 「何ごとだ……」 呟き、はっと気付く。 (こうしちゃいられない) 男は悲鳴のした方を確認して、駆け出した。
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