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死体なんて見慣れていた筈だ。
『死』に直面したことだって、少なくはない。
だと、いうのに。
(情けない……)
男は自身を叱咤して、背筋を伸ばした。
「お前、一体何者だ! そこで何をしている!?」
やや震えながらも、しっかりとした声が出た。
それに、少し自信を取り戻し、続ける。
「一緒に来てもらおうか」
しかし影は、動かない。
男は、腰の『魔法具』に、手を伸ばした。
(そうだ。オレにはこれがある! これで司令官まで上り詰めたんだ)
そして、『それ』を、引き抜いた。
現れたのは、白い、拳銃――。
男は、型に嵌まった固い動きで銃を構えた。
「大人しく言うことを聞け! さもなければ撃つぞ!」
すると。
影はゆらりと身体を揺らして、一歩男に近寄った。
凶器と思しき長い刀を、引きずる音がやけに耳についた。
「……! 武器を捨てろ!」
叫んだが、遅かった。
影が、大きく刀を振りかぶる。
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