序/

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それを見た青年は、興味を失ったように影に向き直り、口端を吊り上げた。 不遜な、笑みだった。 「岡本勇、間違いないな?」 「……お前は、誰だ」 岡本と呼ばれた影が、低く問うた。 「そんなのどうでもいいだろ。コーテーヘーカがお前をお呼びだ。大人しくついて来てもらうぜ?」 岡本は刀を持ち上げた。 「嫌だと……言ったら」 「力づくでも。今、俺、仕事干されたら生きていけねぇんだよ」 岡本の脅しにも、青年は軽く答える。 ――それより。 (今、コーテーヘーカとか言わなかったか……? それは、やはり――皇帝陛下……だろうか) 男は首を捻ったが、そうしている間にも、話は先に進んでいた。 「めんどくせぇけど、眠いからさっさと済ませるぜ」 言って、青年はおもむろにピアスを外した。 男は、目を見張った。 小さなピアスが、次の瞬間にはニメートル程もある、巨大な『鎌』に変わっていた。 長い柄に、大きく急な曲線を描く黒い刃。柄の先端には、墨色の黒曜石が嵌め込まれている。 刃が途中で一度大きく手前に折れてはいるものの、それは紛れも無い『鎌』だった。 そして岡本もまた、驚愕を現わにしていた。「黒狼天竜……!? お前、叶 皐(カノウ サツキ)か!?」 「ご名答。ん、――じゃあな」 「お、おい……ま、待て!! ――ぁ、ぐ」 男には、何が起きたのか全く分からなかった。 気が付くと、岡本が白目を向いて地面に崩れ落ちるところだった。
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