序/

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「本当は一思いに殺っちまいたいとこなんだが……。感謝しろよ」 気絶した岡本に呟くと、鎌を地面に突き立て、青年は大きくのびをした。 「さて、と。――ああ、おっさん、まだいたのか」 「…………」 「おっさん?」 「……はは、ははははは」 「な、何だぁ?」 いきなり笑い出した男に、青年の顔が引きつる。 「叶 皐……はは。まさか総司令官閣下にお目に掛かれるとは……はは」 「おーい、大丈夫か……?」 青年は、男の肩に手を乗せると、ぐわんぐわんと大きく揺さぶった。  しかし、男の意識は帰って来ない。 青年はちっと舌打ちした。 が。 ふぅ、と一度大きく息を吐く音がして。 「閣下」 見ると、男は片膝を立てて平伏していた。 正気に戻った……のだろうか? 「ぅおう! 何だ」 飛び上がって言うと、男は神妙に口を開いた。 「斎藤守、位は少佐。閣下に是非お礼をさせていただきたく――」 こう改まって言っているのだから、これが少しでも善意がある者ならば、断ったかも知れない。 ――しかし。 青年は、善人ではなかった。 ニヤリ、と青年の口が大きく裂ける。 「何でもいいんだな?」 「はい。わたしに出来ることなら何なりと」 「そうか――じゃあ」 一思いに。 手をニョッキリと差し出して、 「金寄越せ」 ――言った。
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