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「守るものがあるから、人間は罪を罪と分かっていて犯す。何も失わずに守れるものなどない。」
其れは的外れではあるが、三成なりの励ましだった。
不器用な友人の、不器用な優しさは、気を付けていないと見落としてしまいそうな程のもので。
吉継は、もう少し上手く言えれば人付き合いも、もっと上手くいくだろうにと思う。
しかし其の不器用な励ましは、確実に吉継の心の重荷を軽くしてくれるものだった。
「あぁ、分かっているよ。」
先程とは違う穏やかな声色に、三成は安心した様に笑う。
「だが佐吉。今の所は『病の原因は罪ではない。だから、お前は罪人ではない。』と、言う所ではないのか?」
其の様子に気付いたのか、吉継は冗談めかしてそう付け加えた。
「…そうか?」
「あぁ、そうだ。」
「ふむ、そうか。」
冗談の通じない三成は、真剣に考え込む。
そんな三成に、吉継は小さな、本当に小さな声で呟いた。
「……ありがとう。」
「紀之っ…「そうだ、佐吉。」
三成の言葉を遮り、吉継は明るく言う。
「障子を開けてはくれないか?」
「…あ、あぁ。」
「もう春だというのに皆が体に障ると言って外にも出られぬ。最近は部屋を開け放つのも咎められるのだ。」
「障子を開けるのも、駄目だと言われるのか?」
怪訝そうな声色で三成が問い掛ける。
「あぁ。」
吉継が肯定の返事をすると三成は、立ち上がろうと立てた片膝を降ろした。
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