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「ただいま。」
「おかえり海帆。」
クラリネットを片手に母さんが迎えてくれる。
その周りには、2人の女の人。
フルート、オーボエ……
母さんのアンサンブルの友達なのだろう。
「あぁっ!」
急に母さんが叫んだ。
「どうしたのよ由希ちゃん」
フルートの女の人が慣れたように言う。
「今の曲、海帆に聴いてもらいましょうよ♪」
え……俺ですか。
「いいわね~」
「海帆君、お願いしてもいいかしら?」
木管アンサンブル……聴いてみたい。
俺は頷いて、近くにあったソファに座った。
スッと構える3人。
さっきまでの和やかな雰囲気が嘘のようだ。
フッと3人のブレス音が聞こえるとすぐにフルートの綺麗な主旋律が俺を包み込んだ。
そこからオーボエ、クラリネットが手をとるように入ってきた。
美しい
楽しそう
魅了される
気づいた時にはすでに曲は終わっていた。
「どうかしら?」
じっと俺を見つめる母さんは、きっと褒めを求めていない。
他の2人も。
「ズバズバ言ってよね。」
ほらね。
「えっと、バランスも良くて綺麗だと思う。…けどなんかきつく吹きすぎかな。カノンだし、もっと強弱聞かせてみたらどうかな。音量じゃなくて。」
くらいの事しか気にならないな。
さすが主席達の演奏。
「記号をもっと深めろってことね。ありがとう海帆くん。」
「いえいえ、頑張ってくださいね。」
「いつか一緒に吹きましょうね。トランペットだったかしら。」
「はいいつかまた。」
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