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会社を辞めた。
特に辞めなくてはいけない理由も、どうしても辞めたい理由もなかったが、ある日ふと我に帰った様に――それはまるで、無くしたと思っていたハンカチを、久しぶりに着た服のポケットのなかに見つけた様に――会社を辞めた。
もちろん同僚も上司も驚いていたし、みんな理由を知りたがった。
しかし、僕自身でさえ驚いているのだし、説明できるような理由も無いのだから、適当に嘘をついて、逃げた。
実家の都合だとか、前から考えていたとか、そんなふうに答えていたと思う。
自分でも、どうして辞めたいのか、深く追求しなかった。
追求したところで、まともな答えなんて出てこない事くらいは自分で予測できたからだ。
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