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とりあえず僕は服を着替えて外に出た。 十月の終わり。冷たい風が枯れ葉を揺らしている。 外に出たものの、行く所なんてどこもない。 仕事をしていた頃は、時間があれば行きたい所が山程あったはずなのに、こうして時間をもてあましてみると、行きたい所なんてただのひとつも思い当たらない。 なんとなく歩いているうちに駅が見えてきたので、適当に切符を買って電車に乗った。 平日の昼間の車内は僕が知ってるそれとは全くの別世界だった。 窓から入る明るい陽射しの中にのんびりとした穏やかな空間がそこにはあった。 子供を連れた母親も、外を眺めている老人も、本を読んでいる学生も、みんな電車に乗っていることを楽しんでいるようにさえ見えた。 通勤中の僕は一体何を考えて電車に揺られていただろうか。
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