手のひらを求めて

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誰もいない丘の上、タイトは黙々と剣を振っていた。飛び散る汗を斬り裂き、強くなりたいと心に誓いながら。 腕はきしみ、感覚を失っていく。体力の限界を感じたタイトは、地面に腰を下ろす。深呼吸し、遠くで揺れる無数の炎に目を向けた。 「いつか、僕も本当の仲間になってみせますよ」 疲労したことで冷静さを取り戻したタイトは、途端に強い眠気を感じる。あくびをしながら目をこすり、クレイ達の下へ戻ろうと立ち上がった。 そこで、異様な雰囲気に気付く。反射的に振り向き、闇に目を細めた。 「クレイさんですか?」 いくら問いかけても、返事が無い。タイトは眉をひそめ、首をかしげた。音もなく、徐々に近付いてくるのが分かった。 体中を駆け巡る不安。脈打つ心臓が激しく鼓動する。素早く、大松を向けたが誰もいない。確かに、何かがいた筈だった。 奥底からこみ上げてくる、恐怖。この感覚は良く知っている。 “アレ”と、どことなく同じ雰囲気。タイトは、唾を飲み込み一歩下がった。 震える手を感情で押さえ込み、漆黒の闇に剣を向けた。それと同時に、低い唸り声が響く。 悪い予感は当たってしまった。聞こえてきたのは、人間の声ではない。この世界に、混沌を生み出した元凶。 そして、それは松明の炎に映し出され、より鮮明となる。 “闇よりいでし存在”それは人の形をしていた。 だが、顔の皮膚はデコボコに腫れ上がり、目玉が真っ赤に充血している。汚れた服は所々破れ、卵が腐ったような異臭が鼻をついた。 「……すいません、クレイさん。僕の旅は、ここで終わりかもしれないです」
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