176人が本棚に入れています
本棚に追加
「あぁ、めんどくせぇ」
色とりどりの野菜が実った畑の中心、仰向けに寝そべる黒髪の少年は、あくび混じりに呟く。
あどけない顔には疲労が色濃く見え、半開きの目は自由に飛び回る小鳥達を追う。
優しい日差しが体を包み込み、心地良いそよ風が頬を撫でる。
睡魔に襲われ、もうろうとする意識。夢の世界へと誘われ、まぶたがゆっくりと閉じていく。
もうすぐ訪れる至福のひととき――。
だがしかし、少年が描いた小さな幸せは、はかなくも崩れ去る。
「フゴッ!」
突如襲った腹部への衝撃。それは、あれほど強かった眠気を完全に消し飛ばした。
呆然とする少年を後目に、腹部の上であざ笑うかのように揺れる小さなスイカ。
突然と、夢から現実へ引き戻された少年は全く動かない。
「クレイ、しっかり働きなさいよ!」
少女の声でふと我に帰った少年クレイは、慌てて視線を背後へと向けた。
そこには、いかにも活発で元気のありそうな少女が、腰に手を当て見下ろしている。
強い横風で長い栗色の髪をなびかせる一人の少女。他人から見れば、長髪の似合う可愛い少女に映るだろう。
だが、小さな幸せを壊された少年の目には、凶悪な悪魔にしか映らなかった。
「リリ、少しは考えろ! スイカはねぇだろスイカは! せめてナスとかだろ!」
最初のコメントを投稿しよう!