涙の味

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漆黒の夜に、赤い血が彩りを添える。クレイとゼグラの前に、死霊は次々と倒れていく。 地面に横たわるタイトは、虚ろな目でその光景を眺めていた。体中を激痛が走り、死の影が忍び寄るのを知りながら──。 見ることをやめられる筈がない。 絶望の闇に包まれていく中、一筋の光りが視界に入っていたからだ。 細い剣を巧みに扱い、死霊を斬り伏せていく華奢な体つきの人間。タイトと、さほど変わらない。 それよりも目に付くのは、金色の長い髪。僅かだが、タイトの目に生気が戻る。 タイトの憧れる女性、ミラルダ。 まともに、会話もしたこともない。それでも、屈強な男達に勝る剣捌きに胸を打っていた。 「ミラルダさん。僕がいくら頑張っても、貴女の様になれないのですね……」 ミラルダは剣を振りながら、励ましの檄を飛ばす。 しかし、もはや、タイトには何も聞こえない。視界もぼやけ、力が抜けていく。 ふと、舌に何かを感じた。ゆっくり見上げると、ミラルダから涙がこぼれ落ちている。 一滴、また一滴と舌の上に落ち、広がっていく。味は分からないが、必死に噛み締めた。最後の力で目を凝らし、ミラルダの手のひらを見る。 「……クレイさん、分かったよ」 見えたのは、その美しい外見からは想像もつかない幾多の痛々しい生傷。それともう一つ。自分との余りに大きな違い。 ──覚悟の重さ。 ミラルダは、認められるために強くなったのではない。 全てを悟った時、意識が完全に途絶える。これ以降、タイトが目を開く事は二度と無かった。 しかし、その顔はとても安らいでいる。 今、一人の男が旅の終わりを迎えた。
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