死体は踊り、狼は牙を研ぐ

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老人に案内された村は人の気配が少なく、家も酷く廃れていた。駆け回る子供の姿も無く、たまに見かける人々の目からは生気が感じられない。 しかし、これは特別珍しい状態ではない。これまで、至る所に足を向けてきた黒狼の牙にとって、とても見慣れた村の一つだった。 「どうか、お恵みください。もうこの子には乳を吸う力も無いのです」 村人達がクレイ達に恐怖の視線を送る中、乳児を抱いた一人の女が勇気を振り絞るように声を出す。 悲壮感漂う瞳から流れた涙はやつれた頬を伝い乳、児の額へと落ちる。 そして、黒狼の牙の目は、そのか細い腕に抱かれた乳児に集まる。 乳児には生気が全く無く、明らかに息をしていない。頭付近にはハエが飛び回り、口からはみ出した舌は力なく揺れている……。 「……付いて来い」 ミラルダは馬から降り、女をどこかに連れて行く。 村までの道を案内した老人は心配そうな目で、女を見送る。 黒狼の牙に関して、決していい噂を聞かない。人の皮を被った悪魔だと言う人間までいる。 それを察したフランツは笑顔を浮かべ、老人の肩に手を乗せる。 「心配無いですよ。ミラルダさんは誰もいないところで、お金か何かを渡すだけですから。誰かに見られたら、俺も私もとキリがないですからね」
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