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途中、窓の隙間から幾度と無く冷ややかな視線が浴びせられる。クレイが顔を向けると、すぐに身を隠した。
このご時世、良心的な親切心を持つ者から破滅の道を辿る。危険な匂いを感じたら、関わらないことが懸命。それが、世の常識となっていた。
クレイは僅かな溜め息をつき、いつものようにゼグラの背中で仰向けとなる。リラックスしたように足を組み、ぼんやりと空を見上げた。
(リリが生きていたら、どうなるのだろう? こんなふうに、変わってしまったのだろうか? ……いや、リリは変わらないな。きっと……)
思想を脳裏に映し出すクレイは、いつしか浅い眠りにつく。
──それから程なくして、先頭を歩く馬の足が止まる。老人は馬車を降り、一軒の建物を見上げた。
「ここじゃ」
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