夕弥

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ちょうどアスファルトが灰色から影色に埋め尽くされた所だった。 空からしっとりとした雨が降る。 しまった、通り雨か。 ついさっき迄は晴れてたのに。 静かな雨のしたたりの音色に耳を澄ませて夕弥は会社のエントランスで両手をポケットにしまい立ち止まる。 なんて心地が良い音を出す自然だろう。懐かしい気持ちになるような本を読みながらまどろんでずっと聴いていたい音。 仕事を終えて帰って行く人々は ぽん と小気味よく傘を開いて何事も無い様に歩き出す。 結構皆、傘を常備してるもんなんだ と妙に感心する。 コンクリートの匂いが包みにやってくるのを感じていると、背後から コツコツ としたピンヒールの音がやって来て右隣で止まった。 「 置き傘してないの?柏原君」 空を見上げたまま返した。
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