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「お疲れ様でした。では5時に定例会議ですのでそれまではゆっくりなされて下さい」
すっと頭を下げ、部屋を出ようとノブに手をかける千草に、後ろから近づく声がかかった。
「それだけを言うためにわざわ彼女を帰したの?」
後ろから千草に覆いかぶさるように、手が伸びて、扉を押さえ込まれた。
頭の上から降ってくる美声に千草は、一瞬目の前の扉を何かに耐えるように睨みつけ、ゆっくり首だけを動かした。
背の高いこの男に目線を合わせるには、これだけ近いと見上げる形になってしまう。
「彼女が専務にとって大切な方でしたら私は何の文句もございません」
眼鏡を指ですくい上げ、無感情に答える。
「ですが、大切に思われるのならこのような場所で卑猥な行為は控えてください。大切な彼女の品格も落としてしまいますよ」
皮肉は通じただろうか?
この二年幾度となく繰り返されたこのやりとりに、千草は疲れてきていた。
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