お買い物に行かなきゃねえ

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日村家 玄関先に、どかっと紙袋の大群が置かれる 「あ~…重かった~…」 「結局晩御飯の食材も買っちゃったからね」 花は涼しい顔で、三つのビニール袋を持ってリビングへ消える あれは全部食料品だったはずだが 服より食料品の方が重いはずだ 明奈、16年目に花の力持ちを知る 「ほら莉王、頑張って」 「んしょ、んしょ」 明奈は背後から聞こえるかわいらしい掛け声に振り返る 優樹が二つの紙袋を持って、莉王を応援している その莉王は重たいビニール袋を一生懸命運んでいる たしか優樹にビニール袋を持たせたはずだが 「ちょっと優樹!なんで莉王に重たい物持たせるの!」 明奈は優樹に詰め寄る 「え、明ねえ、これは違うよ」 「なにが」 優樹はちらりと、んしょんしょ、と言っている可愛い弟を見やる 「莉王がね、優樹お姉ちゃんの持ったげる、って言ってくれたの」 「え」 明奈も莉王の方を向く 彼は玄関で靴を脱ぎ、廊下に足を踏み出していた 「よい…しょ…」 一瞬ふらついたので、慌てて手を添えようとする だが、いいの、一人で運ぶから、と言われてしまった 「莉王は、もう子供じゃないんじゃないかな」 優樹の呟きに、明奈は、そうね、と相槌を打った でも、少し淋しい気がした いつか、莉王は自分達を…姉を必要としなくなるかもしれない それは普通のことだ そう理解はしている だが、どこかで、莉王といつまでも一緒で、莉王に頼ってほしいと思っている いつまでも甘えてほしいと思っている心があった
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