1人が本棚に入れています
本棚に追加
覚悟は、出来ている。
霧野 冬美は、思い切って扉を開いた。
すると、すぐに声をかけられた。
「ようこそ、『nursery storys』へ。」
冬美は、男の低めの、甘い声質にドキッとした。
声をかけた男は、扉から入ってすぐ見える机にいた。
30代のようだが、ピアスをつけ、金茶の長めの髪に、シャープな曲線の輪郭がよく似合っている。黄金色の切れ目が印象的な男だった。
切れ目なのにとろんとした目付きは、冬美に、急にどぎまぎさせる。
(ここで間違いない、のよね。)
男の耳のピアスが部屋の中の光を集め、煌めいている。
アクセサリーや、髪などで、けばけばしい、と見えないのは、涼しげで、けれど影を帯びたミステリアスで端整な顔つきで賄われている。
とは言っても、派手な風貌には違いなく、水商売の匂いを伺わせる。
「あの、」
冬美は、自分が来ようとした店か尋ねようとした。
男は、冬美の言葉を遮り、笑みを浮かべ、席を立った。
「新規の方でいらっしゃいますよね?オーナーの貴城です。」
貴城は、冬美に近寄りお辞儀をした。
(おっきい・・・。)
夢見心地で、冬美は貴城を見上げる。
冬美自体、割りと身長が高い方だから高めのヒールを履いて見上げる、というのは滅多にない。
(こんな人が彼氏だったら・・・。)
ボーッとしてる冬美に貴城がまた声をかける。
「あの?」
「あ、あの霧、」
「名前は結構ですよ、お客様。」
「そう、ですか。」
冬美は、緊張する。こんなことは、初めての経験だ。
全身が硬直する感じがした。
さっき迄は、顔が真っ赤になるぐらい火照っていたのに、今は体の中がゾッとし強ばっている。
「当店では、オーダーメイドのシステムなんですよ、蓮見さんお願いします。」
貴城が奥の方へ声をかけると、焦げ茶の髪を結い上げた、20後半ぐらいの女性が出てきた。
色白の、綺麗に化粧をした溌剌としたハーフ系美人。
にこやかに女性が言う。
「蓮見です。どうぞこちらへ。」
最初のコメントを投稿しよう!