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「あの、ちょっと、何であんたがそこまで知ってんのよ」
するとその人は鬱陶しいくらいの爽やかな笑顔をあたしに向けて言った。
「失礼しちゃうな。ま、僕の顔なんて覚えてないだろうけど…僕って売られた喧嘩は買わないけどちゃーんと売り返す主義でね」
にこっと嘘っぽい笑顔を向けた彼の名札には"浅川 桐吾"と記されていた。
負けじとあたしも言い返す。
「浅…川さん?あたしとあなたは初対面ですし、喧嘩をうられる筋合いもありませんよ?」
「そっくりそのままお返しします」
あたしの言い分は物の見事に返される。
…ちっ。
心の中で舌打ちしたのは否めない。
けれど分かって欲しい。
実際に舌打ちしたわけじゃないってだけあたしって偉いわよ?
「あなた、安定所の職員でしょ?黙ってあたしの職探しのサポートしててくれればいいのよっ…」
「生理的に受け付けない方のサポートは出来かねますねぇ…喧嘩売られて面倒見れる程僕は心広くないんですよ」
やっぱりすぐに言い返される。
迷いもなく。
口の達者なその男にふつふつと怒りを覚えながらも状況を変える術はなく、あたしが失業していることは明らかで。
顔色一つ変えないそいつを目の前にあたしはため息をついた。
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