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「おい…、こ…、だい…」
耳の奥に低くにごりのある雑音が聞こえる…
私は夢を見ているのかと思った。
死んだ世界で聞き覚えのある声が呼んでいる。
私は目の前が真っ暗になっていることに気が付いた…何のことはない。
ただ、目を瞑っていただけだ。
ゆっくりと目を開けると目の前に男の顔がある。
「おい、小僧、大丈夫か?」
ダグだった。
どうやら私は生きているようだ。
状況は何も飲み込めていないが、出血のせいで手足の機能が戻っていないのは確かだ。
どれくらい時間が経ったのかは想像がつく。
日が向こうに見える山に落ちてゆくのが見えている。
意識はまだしっかりしていないが、ダグが私に状況を説明してくれた。
「小僧の方から凄い音とランポスの鳴き声が聞こえたんでな。
久々に走ったぜぇ~」
…走ったぜぇ~じゃねぇよ。
こっちは必死だ。
「今回は運が悪かった。
群れの中にドスランポスがいたからな。
俺が着いた時には小僧は群れの中で気絶していた。
多分、気絶した直後だったんだろう。
俺様の気配に気付いたランポス共は飛び掛かってきやがったが…ふぅ、もう言わなくても分かるだろう?」
あぁ、分かるよ。
あんたの後ろにあるランポスの死体の山ね。
死体のほとんどは原型がないというか、どこかしら体の部位がない。
ドスランポスなど首だけが残っている始末…そうこうしているうちに村人がどこからともなく集まってきた。
どうやら緊急事態に備え、避難壕を作っていたようで、ランポスたちが去るまでずっと隠れていたらしい。
運悪く逃げ遅れた村人は丁重に埋葬し、冥福を祈った。
なんにせよ“ダグ”のおかげで仕事は成功したようだ。
その証拠に村人たちは涙を流し、我々に感謝している。
だが、私は恥かしかった。
結局、気を失っていただけだったのだから。
悔しくて、握れない拳に力が入る。
また、それが私の心に波紋を広げた…
「そう気を落とすな。あの状況で生き残っただけでも大したもんだ。」
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