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負の遺産が …子供のときに行った恐竜展覧会で見たティラノサウルスの骨格ように… 空高くそびえ立っている。 ティラノサウルスの骨格は骨自体が生物の様で生きているかのように力強く白かった。 しかしこの建設途中の基礎と高層部分の剥き出しの鉄骨は骨格とは違い無残にも風雨に晒され赤茶けた錆びが浮いている。 コンクリートやタイルで肉付けされるべき外観などに全く手をつけられていないところを見ると、「あの」バブル崩壊で急遽工事が頓挫し建設会社も逃げ出したのだろう。 巨額の投資や消費が美学と言われ競うように億単位の金が動いていた。 しかし日本経済は底をつき何万もの会社や工場が消えていった。 それは同時に何万もの人間が職を失ったことになる。 …物悲しく幽閑に。 されど決して崩れることのない迫力を持った遺産。 完成も撤去も出来ないこの遺産たちはいつまでも治らない厄介な風邪のように此処に住む人々の脳裏を蝕む。 ~~~~~ この埋立地のビルに住まいを移してからもう5年が経つ。 それは転じて私が家内と結婚した5年、一人娘の紀子が生まれて5年が経ったという事になる。 私は東京の下町で家業の呉服店を高校を卒業してすぐに継ぎ、若旦那として籍を置いていた。 家業は呉服店以外に土地貸しをしていて俗に言う「左団扇」の生活を送っていた。 私は29歳まで恋愛とは無縁の生活を送っていた。 付き合った女性は何人かいるのだが全て短期間で別れてしまうか自然消滅だった。 それを見かねた私の叔母が「あなたももうすぐ30なんだから一度くらいお見合いをしてみてもいいんじゃない? 減るもんじゃないし、相手様もあなたを取って食おうってわけでもないし。 嫌だったら断ればいいのよ」 と、半ば強制的に見合いの席を設けられた。 本音を言えば気が進まなかった。 恋愛など不向きだと思っていた。 しかし無下に断るわけにもいかず見合いをした。 29の春、私と家内は見合いをした。 家内は私よりも5歳も年下だった。 まだ24だった家内は私以上に緊張して相手方の親類に挟まれて肩をすぼめて座っていた。 しかしお決まりの「後はお若い二人で…」の後に二人きりで話をしてみると妙に気が合った。 後日、また会う事になった。
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