なし

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私も家内も恋愛には奥手だった、しかしのめり込んでしまうと前しか見ることが出来なかった。 家内は貧しい家庭で生まれ育った。 足の悪い年老いた義父がびっこを引きながら図書館の清掃員として働いていた。 義母は生まれつき甲状腺の病気で身体が弱く家でボールペンに芯を入れる内職をしていた。 家内は親に迷惑をかけてはならないと高校は公立。 大学は国立に入学した。 家内は義務教育を終えてしまったら仕事を始めようと考えていたといつか聞いた。 しかし両親の「お金の事は心配しなくていいから高校だけは出て」との説得を受け入れた。 交際を始めてから半年。 結婚を前提に付き合っていたのだが… …家内に子供が出来た。 それを知ると親戚たちは揉めに揉めた。 「河田家の跡取り息子が真っ当な順序も得ずに子供を授かるなど恥以外の何物でもない」 「相手方は良いだろう、河田家の土地も財産も折半出来るのだから」 散々に文句を言われた。 最終的に「いっそのこと堕胎させて相手方と絶縁しろ」と叔父に言われたのをきっかけに私は家を出た。 土地も財産も捨てて家内と産まれてくる子供と一緒に暮らす決意をした。 ~~~~~ 結婚式は私の両親をはじめ親戚一同一人たりとも来なかった。 元々大々的な結婚式にするつもりはなかった。 しかし両親が来なかったという事実が私を苦しめた。 家族、親類で唯一来てくれた姉が私に 「アンタはいつも親の作ったレールに乗って生きてきたんだから今回くらいはいいじゃないの? 父さんも母さんも世間体を気にして来ないだけよ。 ほら、コレ。」 と、私に達筆で名前を書いてある、膨れ上がった祝儀袋を手渡してきた。 …今もその祝儀袋の中身をあらためた事はない。 仏前を注文するときに引き出しを改造した、2重の引き出しになっていて私以外誰も開ける事が出来ないそこに祝儀袋は収められている。 家内すらその事を知らない。 そもそも私の両親から祝儀を貰ったことすら告げていない。
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