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結婚式の間中、家内は大きくなり始めたお腹に手を当て顔を真っ青にしゃくりあげるようにすすり泣いていた。
それは喜びの涙でないのはその場に集まった全ての人間が知っている。
埋まるはずの新郎側の席に誰も目をくれてはしなかった。
ポツポツと埋まる席の島に居たのは学生時代の友人や近所の友人たちだった。
結婚式場の職員も慣れているのだろう、テキパキと自分のすべきことだけをこなしているだけに私の目に映った。
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朝5時に起床し経済新聞と地元のローカル新聞2紙を取っている朝刊をポストから引き抜く。
そして家内が作る味噌汁を啜る。
娘が起きだす前に私はスーツに袖を通して出勤する。
まだ空は濃紺で薄暗く太陽が顔を覗かせるには時間がある。
勤め先の都心に出るまで2時間半を要する。
電車を乗り継ぐが、バスを使わずに済むので私はその分だけ救われていると思うようにしている。
私はここに住まいを移してから10キロ痩せた。
29歳から5年でひとまわりは老けた。
結婚、転居、転職。
流れに任せて生きてきた私にとって全てが困難極まりない事だった。
しかしそれでも私は幸せだった。
残業を終えて帰宅し娘の寝顔を見てから妻に酌をしてもらい、瓶ビールを飲みながら手料理を味わっている時など特に。
休日にはマイカーで近くのテーマパークやデパートへ家族3人で出掛ける。
…永遠だと思っていた幸せが壊れたのは6年目の冬だった。
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