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幸福は幸福を招くのだろうか?
何十社も落とされた転職活動だったが、娘が産まれたらすんなりと勤め先が決まった。
妻子持ちの私にも条件は悪くなかった。
そもそもその会社の社長に気に入られたのだ。
面接当日、5階建てのビルの前で一人の緑色の作業服の老父が花壇に水を撒いていた。
私は出来るだけ元気を振りしぼり「おはようございます」と老父に声をかけた。
老父も「こんにちは、今日はイイ天気ですね」と少し談笑した。
しかし面接の時間は迫ってきているので話を一度区切って「すみませんこれから面接なんです」と老父に言って辞去した。
娘が産まれ浮かれていた私は面接でも隠すことなく娘の事を喋りに喋った。
その場にいた面接官は冷たい目で私を見ていた。
その時ふと「いいか~?入るぞぉ。」
と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
花壇で見た老父だった。
作業服から着替え、先ほどとは打って変わって見るからに高級そうなスーツを着ていた。
座っていた3人の面接官が弾かれたように立ちあがった。
そして90度に近いお辞儀をした。
そして老父は簡単に自己紹介をした
「私はこの会社で社長をしておるのだよ。 いつも作業服で花壇に水をあげているから誤解されるのだよ 初めて面接に来る人には絶対わからないだろうな。」
「あぁそれからキミにひとつ質問があるんだ。」
社長はキレイに禿げあがった頭をぴしゃりと叩いて私に問うた。
「キミの子供は娘さんだね? 君とってどんな存在だね?」
社長はまず私にこう問うた。
私は迷わず
「妻の血をひいた私の第二の結婚相手です、残念ながら私の血も混じってしまっておりますが…」
と答えた。
社長は豪快に笑い「採用だ、明日娘さんの写真を持って出社しなさい」
と私に言い面接室を出て行った。
面接官は戸惑いの表情で事務的に採用の手続きを行った。
そして翌日、私は約束通り写真を持ち出社した。
しかし会社全体が異様に静まり返っていた。
部長が私を課に連れて行き自己紹介をさせた。
私は気になっていたので「本日、社長はどちらに…?」と聞くとその場の空気が止まった。
社長は私を採用した後、昨夜遅くに脳梗塞で入院したのだった。
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