玉井

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「うわ……三十九度超えてる」  教室の壁の隅に掛かっている温度計を手にして、女子が騒いでいる。黒板の上に掛けられた時計を見ると、すでに十六時半を過ぎていた。  あの女子の言っている事が嘘でないのなら、この時間に三十九度は異常である。おそらく、この教室が三階にある事も深く関係しているのだろう。  僕は暑さに非常に弱い。  どのくらい弱いのかと言うと、小学生の頃に“アイスボール”とあだ名が付いたくらいだ。  暑いとすぐに溶けてしまう氷、つまり夏になると、僕はアイスのように“か弱い存在”になってしまうのだ。なぜ“ボール”なのかと言うと、僕の苗字が“玉井”だから。  そんなアイスボールにとって、こんな教室はもはや用のない存在だ。  僕はこのサウナから早く出たくて、教科書を鷲掴みにし、カバンの中に放り込んだ。そして、ダッシュである。
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