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鴨川の岸辺で一人、少女が晴れ渡る青空を仰いでいた。
碧みがかった髪は黒い髪紐で結われ、先が肩の辺りで風になびいている。
顔にかかった束を耳にかけたその指は、棒切れのように細い。
だが細いのは指だけなのではなく、身体つきが華奢であった。
身を包む着物はひどく汚れ、所々破れている。
それでも元は上等だったのか、時折、金の刺繍が太陽の光に煌めいていた。
そして彼女の右側には、一振の刀が置かれていた。
一羽の雀が彼女の視界を横切った。
しかし顔の割に大きな、そして少し吊り上がった漆黒の瞳には映っていない。
彼女は何処を見るでもなく、ただ空を眺めていた。
視線を水平に下げると、対岸では老人が釣糸を垂らしているのが目に入る。
魚が草むらに放り出されたのを見届けると、少女は胸元へ手を差し入れた。
何か取り出した彼女は、それを両手で力強く握り締め、俯いた。
その時、彼女の背後から一人の男が姿を現した。
顔は頭巾で隠されていて、見えない。
徐々に男が忍び寄る。
少女は全く気付く素振りを見せない。
男は刀を拾い上げると、彼女の頭めがけて勢いよく振り下ろした。
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