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「うっ……」
小さい桜色の唇から微かな呻き声が洩れ、地面に倒れる。
少女にとって幸いにも、刀は鞘に納められた侭だった。
男は満足げに微笑み、少女が握っていたそれを盗り、己の懐にしまいこむ。
そして軽々と少女を小脇に抱き抱えると、目の前に流れる川へ投げ込んだ。
「いずれまた何処かで、逢えるだろうさ!……生きていればの話だがな」
男は懐を二三度叩くと、元来た道を戻っていった。
水面には少女の髪が水草のように揺らぎ、身体は浮き沈みを繰り返しながらゆっくりと流されてゆく。
まるで彼女を嘲笑うかの如く、頭に大きな鴉が止まった。
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