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二人の男が川沿いを歩いている。
彼らは腰に大小の刀を差していた。
一人は背が高く、逞しい体つき。
闇色の長い髪は頭上で束ねられている。
眉間には深い皴が刻まれ、そこから普段の苦労が伺える。
細く吊り上がった目は鋭い光を放ち、己が前方を行くもう一人の男を睨み付けていた。
「総司!早くそれを返しやがれ!」
彼、新撰組副長、土方歳三が怒気を含んだ声で叫ぶと、小柄な男が振り返った。
「嫌ですよ。まだお団子食べ足りませんから」
そう言ってにっこりと微笑んだ美青年は、一番隊組長、沖田総司。
丸顔に丸い目、そして細い身体。
土方と同じ位置に束ねられた黒髪にもし簪があれば、女と見紛うだろう。
だが腰で殺伐とした気配を釀す刀の為に、世の男が声をかけることはなかった。
「次は彼処でお汁粉を……あれ?」
突然立ち止まった沖田。
追い付いた土方が、その手から隙有りとばかりに金入れを奪い取る。
「ったく幾ら人の金で食えば満足すんだよ……おい、どうした」
踵を返した土方は、動かない沖田を不審に思い、眉根を寄せる。
視線の先には、小さい岩の上で羽を休める一羽の鴉。
「只の鴉じゃねぇか。帰るぞ」
「違いますよ」
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