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土方に掴まれた腕を振り払い、一目散に駆け出す。
「大丈夫ですか?!」
彼の後からゆっくり歩み寄ると、それは岩ではなく、人間の頭だった。
しかも、まだ若い女の頭。
辛うじて岸に引っかかっている彼女の顔は血の気がなく、ぐったりとしている。
「死んでんじゃねぇか?」
「いえ、微かに脈があります!」
透き通るように白い手首を持ち上げ、沖田は声を上げた。
「取り敢えず屯所に連れて帰りましょう!」
突拍子もない提案に去りかけていた土方が目を遣ると、彼は既に女を抱き上げていた。
そんな細い身体の何処に力を隠しているのかと問う余裕もなく、慌てて答える。
「んな得体も知れねぇ人間をどうして……っておい!」
彼の言葉は間に合わず、沖田は自分の羽織をかけ、走り出していた。
「待ちやがれ総司!」
「嫌ですよ!」
全く立ち止まろうとしない背を見つめ、溜め息を吐く。
「今日は録な事がねぇ……」
土方は髪を掻き毟ると、くたびれた様子で沖田を追い掛けた。
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