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「はい、修理は終わってます。
どうぞお確かめ下さい」
商売用笑顔を、顔に貼りつけて。
丁寧に挨拶する僕こと恭介。
僕は老人の依頼品である年代物の腕時計をケースから取り出した。
落とさないように、
差し出してきた手の下に僕の手を添えて、丁寧に手渡した。
「おお……、見事な仕上がり。
ありがとうございます……」
老人は確かめるや否や、満足そうに笑みを浮かべる。
老人はそれを内ポケットにしまい、お返しにかすれた声でお礼の言葉を一言。
老人は受け取った代わりに、茶色い封筒を僕へと渡す。
この封筒を見た僕の心臓は
急に高鳴った。
何故なら、
それは先程の時計修理の報酬金。
では失礼。
と老人は会釈をし、踵を返す。
ヨロヨロと危なっかしい足取りで、彼はこの場を去って行った。
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