第一章

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静かなリズムを刻む曲が流れるバー、セレナの店内に、桐生は足を踏み入れる。 そこにいたのは、一人の客と、女性店員一人だけだった。 桐生は店内を見回し、その女性店員に笑いながら 「相変わらず静かだなぁ」 と話す。 女性店員は棚から一本のボトルを取り出し、コップに大きめに砕かれた氷を入れ、ボトルの中身を入れた。 そして桐生に反論し、皮肉紛いのことを言う。 「あなた達が居ちゃ、怖くて飲めないでしょ?普通のお客さん。」 彼女は麗奈。 ここ、『セレナ』のオーナーをやっている。 桐生とは10年近くの付き合いだ。 桐生はそれを聞いて笑い、店内を見渡した。 「麗奈、由美は?」 麗奈は桐生の質問に淡々と答える。 「今買い出し行ってるの。 どうせまた、“腹減った”とか言い出すんでしょ?」 それを聞いた一人の客は笑い、桐生と顔を見合わせて言った。 「違いねぇ」 この男性客は錦山彰。 東城会直系堂島組構成員だ。 桐生とは幼なじみで、お互い同じ孤児院で育った。 桐生は錦山の隣に座り、麗奈からコップを受け取ると それを一口含んだ。 錦山はそれを見ると、自分も酒を飲み 桐生に話しかけた。 「…どうなんだ?桐生組の立ち上げは?」 「まだ決まった訳じゃない。 …組長が決めることだ。」 カランと、氷が崩れた音が鳴る。
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