第一章

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錦山は「はっ」っと笑い、椅子を回転させ桐生に体を向け、そして 桐生に指を突きだして言う。 「組長も嫌とは言えねぇよ 風間の親父がその気なんだ。 堂島組は、あの人で持ってるようなモンだからな。」 錦山は、自分の組の頭にあたる“堂島組長”の陰口を続けている。 実際、本人の前でその事を言ったら “エンコ”だけじゃ済まない話だ。 錦山は まだ堂島組長の事を話す。 酒が入ったことで 普段言えない愚痴を吐いているのだろうが、桐生は喋るのを止めさせた。 「控えろ、錦。」 錦山ははっとなり、体をカウンターにむき直した。 そしてまだ酒が入っているグラスを一気に飲み干し、 溜め息をついた。 「…また お前に先越されちまったか…」 錦山は、麗奈に新しい酒を注文する。 そうすると麗奈は慣れた手つきでボトルの蓋を開け、新しいグラスと氷の中にそれを注ぐ。 30秒も掛からない内に、麗奈は注文された品を錦山に差し出した。 ※エンコ…極道の業界用語で、「小指」の事。 極道同士でケジメを付ける時、「エンコをつめる」と言うが、それは「小指を切る」という意味。
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