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桐生はそれを聞くとグラスを回した。
中の氷が 酒を混ぜる。
それを一口飲み込んで、錦山に話しかける。
「…なぁ錦、お前…妹はどうなんだ?」
麗奈から出された酒を、半分以上飲んだ錦山は 口からグラスを外し、目線を動かさず話した。
「来月、もう一度手術だ。…多分、次で最後だな。」
桐生はグラスを傾ける手を止め、錦山の方を向いた。
「最後?」
錦山はグラスをカウンターに置き、手を組んで その上に額を乗せた。
「体が持たないらしいんだ。 …これでダメなら…もう……」
「…そうか…」
桐生と錦山は、両親が居ない。…つまり孤児だ。
桐生には兄弟も居ないが、錦山には唯一 妹が居る。
けれど 生まれつき体が弱く、殆どの時間を病院で過ごしていた。
何度も病気を治そうと 手術をしてきたが、全てが無駄に終わってしまっていたのだ。
その時、セレナの裏口が開き、幾つもの買い物袋を持った女性が入ってきた。
髪が長く、整った顔立ちの“美女”は、桐生と錦山を見ると、綺麗な笑顔を見せた。
「…あ!来てたのね!」
「由美!」
錦山は言った。 それを聞いた桐生は、ゆっくりと女性の方を見、穏やかな笑みを浮かべた。
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